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イノベーティブな生鮮食品EC、クックパッドマートの事業責任者に学ぶ「新しい仕組みの作り方」(前編)

前回、弊メディアで取材させていただいてから2ヶ月。2018年9月にローンチした置き配型生鮮食品EC「クックパッドマート」は、ひとところに立ち止まることなく目まぐるしい変化を続けています。

それは、受け取り拠点の拡張という側面だけではありません。アプリの改修はもちろん、冷蔵庫の改修、新たな機能や仕組みの開発、現時点ではまだここに掲載できないことまで、常にサービスに手を加え続けている印象です。

クックパッドマートは何故、ここまでイノベーティブであり続けられるのでしょうか?今回、事業責任者の福﨑さんに再びお話を伺う機会をいただき、その背景についてお聞きしました。

すると、出るわ出るわ、福﨑さんの頭の中にあるものは、想像をはるかに超えて広く、そして同時に深いものでした。その思考から出るアイデアの数々は、どのような業種に身を置いている方にとっても、新しい事業や仕組みを作る上での示唆に富んでいます。

そんな福﨑さんのお話を前後編に分けてたっぷりとお届けします。前編では、現状のサービスの裏側や日々アップデートしていくクックパッドマートについてお聞きしました。

後編はこちら

スピーカープロフィール

福﨑 康平(ふくざき こうへい)
1991年生まれ。在学中にバザーリー株式会社を設立し、災害版民泊サービスである「roomdonor.jp」などを運営。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、習い事CtoC「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッドに入社。取締役を経て代表取締役社長に就任。事業売却ののち、2018年にクックパッド株式会社に新規事業担当として入社。生鮮ECサービス「クックパッドマート」の立ち上げを行う。現在は、買物事業部本部長、JapanVPとして事業全体の統括を行う。
伊藤 暢朗(いとう のぶお)
1973年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。法人大手のお客様担当営業に8年従事したのち、営業の提案活動を支援する専門組織立ち上げに参画。以後13年間営業支援に携わり、2019年5月にエスキュービズムに入社。

「冷蔵庫」もアプリと同じ、毎月のようにアップデート

伊藤:本日の対談の前にクックパッドマート・ステーションに行ってきたんですよ。以前弊社で取材させていただいた記事を読んでいたので、ワクワクしまして。

福﨑さん(以下、敬称略):何を購入されたんですか?

伊藤:渋谷の「チーズスタンド」のモッツァレラチーズと、野菜で水ナスと白ナスを買いました。どれもなかなか近隣のスーパーに置いてないじゃないですか。「チーズスタンド」は有名店なので「買って帰るよ」と言うと、妻は喜んでましたね。カプレーゼにして食べたんですけど、美味しかったです。

福﨑:ありがとうございます。

伊藤:そういえば、さっき御社の受付に置いてあるのを見て気づいたのですが、冷蔵庫の仕様って変わりましたか?買い物をした時に見たものとは違っていたので。

福﨑:実は月に1回ぐらい変わってるんですよ。アプリのアップデートと同じような考え方で、常に改善してますね。

伊藤:そうなんですね。食材を手にした瞬間、芯まで冷えていてすごいなと。すごいプロ仕様の冷蔵庫ですよね。私は実家が京都の錦市場で鮮魚店をやっていたので、このすごさがよくわかるんです。

福﨑:温度管理にはかなり力を入れていますね。「置き配」だと保冷剤を入れて下が冷えていても上が冷えていないとか、マグロなど解凍もののお魚だとドリップが出たりして鮮度が一気に落ちてしまうので。あの冷蔵庫は元々はベースがワインセラーで、温度だけではなく、湿度も食材に適した状態で保管しているんですよ。

伊藤:冷蔵庫に「配送料0円」のステッカーが貼ってありますよね。あれ、私は温度管理も含めて「これだけ心を配った配送が0円なんです」というバリューなんだなと理解したのですが、そのような打ち出し方はしないのですか?

福﨑:そこはどちらかというと販売者の方がとても気にされるポイントで、それが伝わることで魅力的なお店にご参加いただけている、という側面があります。でも、確かにユーザーさんにももっと「食材の本当においしい状態を持ち帰れる」という価値を伝えた方がいいかもしれませんね。

冷蔵庫が進化していました!(写真左が2019年6月、写真右が2019年8月)

一番置きたいのは、駅とマンションの共用部

伊藤:今回、青物横丁のツルハドラッグ南品川店のステーションでピックアップしたのですが、実は我が家の真下にもツルハドラッグがありまして、そこにステーションがあったらいいのに!と思いました。ステーションの拡張計画はどんな感じで進んでいるんですか?

福﨑:今は30箇所弱ぐらいにステーションがあるのですが、まず年末までに100箇所にするという計画で進めています。

伊藤:ここに置きたい、という条件などはありますか?

福﨑:基本的には日常生活と親和性が高いか、駅から至近距離にあって、普段の生活動線上にあるかどうかということを大事にしています。一番置きたいのは駅と保育園ですね。

伊藤:保育園は「ママ動線」、あるいは「共働き動線」ですね。

福﨑:そうです。あとはマンションの共用部に置きたいです。150世代以上入っているマンションであればどんなところでも置こうという方針で、今いろんなディベロッパーとお話しさせていただいていて、年内にはいくつか事例が出せるかな、という感じになっています。それ以下の世帯数でも、半共用部というか、周辺の住民でも使えるような場所であれば置けるような形にできればいいなと思っています。弊社の冷蔵庫は電源に刺せばオーケーというサイズ感なので、置きたいとなれば1週間から2週間もあれば置けます。

伊藤:決まれば早いということですね。

福﨑:スピード感は重視しているので。あと鉄道事業者さんともいくつか具体的な話を進めていて、まずは一箇所から始めようとしているので、そこも年内に実現できるといいなと思っています。

伊藤:開発していく地域としてはやはり首都圏中心となりますか?

福﨑:東京近郊だけで考えているわけではありません。中規模以上の都市であればどこでも成立するモデルだと思っているので、政令指定都市には展開できると考えています。言い方を変えれば、ウーバーイーツが展開しているような場所が一つの目安ですね。

「ラストワンマイル」への取り組みも始まる

伊藤:「置き配」以外の形でサービスを提供することは考えていないのですか?

福﨑:実は、新しいチャレンジとして、ラストワンマイルについても取り組もうと考えているんです。今までマートステーションは、近くの住人が日常使いとして、送料無料でいつでも受け取れるというバリューを提供してきました。でも、このサービスを使い込むほど、週末のバーベキューなどに使いたいという要望が出てくるんですね。

伊藤:確かに特別感がありますからね。

福﨑:そういう時って結構大量のものを頼むことが多いですよね。今の「置き配」だと、10個以内ぐらいの商品を受け取るのであればいいんですけど、20個30個となってくると、ユーザー体験としては悪くなってしまいます。

伊藤:なるほど。

福﨑:それから郊外の方などは、なかなか都市部のように毎日受け取りに行くっていうのが難しい場合もあります。それらの課題に対して、今のステーションを受け取り拠点ではなく「デポ」という形で配送拠点として活用し、週一だけお届けする形でラストワンマイルを埋めるサービスができたらいいなと考えています。

販売者に「めんどくさい」と思わせないオペレーションを徹底的に追求

伊藤:販売者の方には昔気質の人も多いと思うんですけど、事業がうまく行っている要因はなんですか?

福﨑:大きくは2つあります。1つは、発注や商品管理をどうしていくか。まずは朝の通勤時間帯に注文していただければ夕方に届くという世界を作っているので、注文を迅速に販売者へお伝えすることが大事です。その手段として、FAXやメール、メッセージツールなど、販売者が日常的に発注管理で使っている手段に合わせています。あとは、注文状況などもリアルタイムでお伝えしているので、注文が入っていくうちに在庫が切れそうであれば、もうその商品はクローズにするという体制も整えているので、注文したのに欠品が多い、という状況は避けています。

伊藤:昔ながらの販売者はいまだにFAXでやり取りするところも多いですよね。

福﨑:もう1つは、注文が入った後の工程をサポートする専用のラベルプリンターですね。これが結構よくできていて、これだけでも仕組みとして売れるぐらいのものになっています。販売者が何も触らなくていい仕様になっていて、作業開始時間になったらここからラベルがバーっと出てきて、ラベルに書かれている商品を用意してラベルを貼って、コンテナに入れておけばもう出荷状態になっていると。

伊藤:極力、販売者側に「めんどくさい」と思わせない仕組みということですね。

福﨑:そうですね。販売者の方には「あ、飲食店の発注と同じなんだね」と思っていただきたいんですよ。このラベルプリンターはコンセントに刺すだけで使えるので、電波が悪かったら場所を変えるのも簡単ですし、何か問題があっても全部遠隔で私たちが操作できるようにもなっているので、安心して使っていただけます。

伊藤:販売者の方は基本的に現金商売だと思うのですが、支払い方法に関しても同様に複数の手段で対応しているのですか?

福﨑:はい。請求書や集金払いなど、飲食店に食材を届けているのと同じ方法で日々のオペレーションが回るように配慮しています。

伊藤:徹底していますね。

福﨑:結局そこが複雑だと、商品が用意できなかったり、全然メンテナンスされていないということが起きるんです。

伊藤:頼みたいものが頼めなかったというのは、ユーザーにとってすごく残念な体験になってしまいますものね。

福﨑:今、ネットスーパーなどの生鮮食品系サービスって欠品率がすごく高いんですよ。私が調査した限りでは10%を超えるような状態です。野菜や魚は季節ものなので、毎週のように商品が変わっていくため、私たちも随時商品を変えていくことで食品の欠品率を1%以下にしています。例えば指定の魚はないけれど白身魚が食べたい、というような時に「お任せ鮮魚」みたいな売り方も考えられます。

販売者、ユーザー、関わる全員が「自分のためのサービス」と思える仕組みに

伊藤:めんどくさいことをしたくないという販売者がいる反面、クックパッドマートのプラットフォームとしての良さを理解していて、もっと積極的に活用したいという販売者もいると思うのですが、そういった方からユーザーに直接語りかけたいという要望は出ませんか?

福﨑:あります。そこの仕組みがまだできていなくて。今レビュー機能や、販売者から直接ユーザーさんに連絡できる機能を開発している最中なのです。ただ食材が買えるだけじゃなくて、商店街とか市場に行った時に発生する、「今日はこれがオススメだよ」とか「今日は時化ちゃったから入ってないよ」みたいなコミュニケーションが、緩やかな学びや関係性の構築に繋がるプラットフォームを目指したいですね。

伊藤:私もそうですが、おそらくユーザーは目利きを期待しているのではないでしょうか。「ああ、魚市場のお店が出てるんだ」というだけで、気分が上がるんですよね。普段、市場には簡単に行けないですし。1to1とは言わないまでも、そういったプロの目利きに基づいた一言が添えてあれば、それがすごいバリューになるのかなと。

福﨑:そうですね。あとはユーザーさん同士のコミュニケーションもあると思います。最近ツイッターで、モッツァレラチーズと桃に山椒をかけて食べると美味しいというのがバズったのですが、そういった情報でユーザー同士が高め合えると、今度は販売者が「そんなオススメの仕方があるんだ」ということに気づいて、また新しい学びになる。そうやってお互い刺激し合えるような環境ができると、販売者もユーザーさんもこのサービスを使い続けたいと思うはずなので。

伊藤:ある意味コミュニティですよね。それがこの「マート」というサービス名に込められた意味だと思うのですが。

福﨑:クックパッドマートに関わる全員が、自分のためのサービスなんだと思ってくれるような仕組みにしていきたいですね。中国では「フーマーフレッシュ」がある都市の不動産価格が上がったりしていますが、私たちのサービスも、ステーションがある近くに引っ越したいと思えるような仕組みになっていくといいなと思っています。

合コンで「俺、クックパッドマート使ってるよ」と言われたら面白い

伊藤:クックパッドマートのユーザー層に関して、もちろん「共働き」というキーワードはあると思うのですが、それ以外の特徴はありますか?

福﨑:意外だったのが単身世帯の方です。

伊藤:男性ですか?

福﨑:はい。そもそも料理をあまりしないから、これまでは何を買ったらいいかわからなかったという方が、焼くだけでいい焼き鳥用の鶏肉が売っていたり、それこそモッツァレラチーズを切ってトマトと混ぜるだけで美味しいんだっていうのがわかると、そこからの熱量が高いんです。もともと美味しいもの自体は好きな方が多いので、今までは外食に求めていたことが自分でできる、というところに価値を感じていただけるわけです。

伊藤:食は毎日のことなので、ちょっと行いを良くすることが自分に返ってくる感じがありますよね。

福﨑:私もかなり料理をするのですが、確信していることがあって。美味しくない料理って、だいたい食材が美味しくないか、料理工程が複雑で余計なことをしているかどちらかなんですよ。美味しい食材だったら塩を振るだけでも素敵な料理になりますし、切り口を変えるだけでも全然食感が変わったり、そういうことができるようになると、「外食よりもラクだし楽しい」という気づきに繋がります。

伊藤:男性が料理できるのって、結婚できる確率が上がりそうですよね。もちろんそればかりではないと思いますけど。

福﨑:例えば合コンの場で「俺、クックパッドマート使ってるよ」って言われるようになったら面白いですね。料理はコミュニケーションツールになるので、これからの時代、夫婦で料理を作っていくというのがすごい大事だと思います。

伊藤:作るのが楽しくなるっていうのも、「毎日の料理を楽しみにする」、という御社の企業理念に通じていますよね。

福﨑:私たちの企業理念は、そこに込められている意味を読み解いていくと、その先で得られることに繋がる文脈がたくさんあるんですよ。毎日の料理が楽しくなると家族も仲良くなるとか、健康になるとか。あと、これまでって共働きだったりすると、やっぱりハードルが高かったんですよね。時間がない、スキルがない、食べてくれる人がいない、料理しない理由ばかりが出てきていた。それに対して一つ一つ仕組みとして解決策を提示していきたいですね。

後編はこちら

後編目次

1. 「買った後」に選択肢を与えるサービスになりたい
2. なんでもやってくれる、ただしユーザー自身がそれをコントロールしている実感があることが大事
3. 本質は、誰の元に「お金と信頼」が集まればみんなが幸せになれるか
4. 「他の人と過ごすより、自分と過ごした方が社員の人生が濃くなる」ことだけにコミットする
5. 「ユーザーファースト」とはユーザーだけを見続けることではない

前回のインタビュー記事


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