ワンクリック購入の仕組みを今こそ有効活用!スマートなECサイトへ
買い物カゴ画面を開くことなく、スムーズに商品を買えるワンクリック購入。
長くAmazonの特許であったこの技術はすでに特許を失効し、どのEC事業者も自由に実装できるようになりました。
それは一方で、今後のEC界においてワンクリック購入のようなスムーズな注文方法の導入が「当たり前」になる可能性を示唆してもいます。
今回の記事では、ワンクリックの仕組み、そしてそのメリットとデメリットについて紹介したいと思います。
【目次】
- ワンクリック購入はAmazonの特許
- ワンクリック購入の特許は2017年に失効
- キャンセルも可能!ワンクリック購入の仕組み
- ワンクリック購入はカゴ落ちからの損失を減らす
- ワンクリックならSNSや動画から直に購入が可能
- ワンクリック購入のメリット
- ワンクリック購入のデメリット
ワンクリック購入はAmazonの特許
ボタンを1回押すだけで注文が完了する「1-Click(ワンクリック)」は、アマゾンが開発し1999年に特許を取得した技術です。
Amazonは、この特許をこれまでガッチリと保護していました。物理的なボタンを自宅やオフィスに置いておき、商品が欲しい時にそれをプッシュすれば配送されるというAmazon Dash(アマゾン・ダッシュ)、音声アシスタントによってコマンド注文ができるAmazon Echo(アマゾン・エコー)は、いわばワンクリック技術の拡張版ともいえるものです。
これらはいずれも、注文プロセスにおけるカスタマーの手間をいかに省略するかというコンセプトによって実装されたものです。洗剤や飲料、オムツなど日常的に使われる商品がラインナップされているAmazon Dashは、ストックがなくなった際にすぐ注文できるという手軽さゆえ、「1-Click」におけるある種の到達点といえるかもしれません。
ワンクリック購入の特許は2017年に失効
これまではAmazonに特許使用料を支払うことなしに利用できなかったワンクリックですが、本国である米国では2017年に、日本では2018年に特許が失効しています。
そのため現在では、競合他社が自由にワンクリックの技術を使い、さらなる便利なサービスと組み合わせて活用することが可能になっています。Amazonがワンクリックに関連するテクノロジーのすべてを掌握することはなくなり、ライセンス料を徴収することもありません。
ちなみに、2000年頃のAmazonは、ワンクリックの類似サービスを提供する企業に対して強硬な姿勢を打ち出していたといわれています。しかし特許の取得から20年が経過した今、AmazonはAI技術の活用やこれまでのノウハウを活かすことで、Amazon Echoをはじめとする新たなサービスの開発を実行に移しています。
ワンクリックはAmazonにとって過去の開発技術となっており、世界のECへ広く拡散されていくことで自社も成長していけると考えているのではないでしょうか。
キャンセルも可能!ワンクリック購入の仕組み
ワンクリック購入は、初回の注文で入力した支払い方法と配送先住所を記録しておくことで、ショッピングカート画面がスキップできるようになっています。
1つの商品をワンクリックで購入することができ、なおかつ複数の商品をまとめてワンクリック購入することもできます。
またキャンセルすることも可能です。Amazonでは、間違えて注文してしまった商品はアカウントサービスから「未発送の注文」をチェック、発送前の商品を無料でキャンセルすることができます。
「商品の詳細を見ようとしたら間違えて注文ボタンを押してしまった」というケースは、ヒヤリハットも含めればおそらく誰もが一度は経験しているでしょう。
そのため、おそらく今後ワンクリックを導入するECサイトも、類似の方法を使ってキャンセルができるように注文システムを組むことになるでしょう。
ワンクリック購入はカゴ落ちからの損失を減らす
ワンクリック購入はオンライン注文における「カゴ落ち」という損失を回避するという大きなメリットがあります。
カゴ落ちとは、ECサイトのユーザーがオンラインカートに商品を入れたまま、何らかの理由によって注文せずに放置してしまう現象をいいます。これは消費者に商品を確保されてはいるが購入はされないという、いわば注文が宙に浮いている状態であり、リテーラーにとっては見過ごせない機会損失の原因のひとつでした。
この事態を回避するために有効なのが、ワンクリック購入です。
ワンクリックならSNSや動画から直に購入が可能
スマホやタブレットの普及により、モバイルで完結するECサイト、モバイルコマースやスマートECサイトの構築が今後より重要になってくるでしょう。
ワンクリック購入のテクノロジーは、FacebookやInstagramといったSNSでも活用できます。
SNSに投稿した画像や動画にワンクリックを導入すれば、投稿からECサイトページに遷移することなく注文できるようになります。
これまで、ECサイトのSNSは、見込み客をどのようにサイトに誘導するかに焦点を当てた運営がされていました。しかし、ワンクリックでサイト移動を省略できれば、SNSが新たなチャネルとしての役割を果たしてくれるようになります。
スナップチャットのワンクリック注文機能
送った画像や動画が、閲覧してから数秒で消滅するアプリ「スナップチャット(Snapchat)」では、「Shoppable Augmented Reality」という機能にワンクリック注文を実装しています。
これはAR(拡張現実)カメラから購入サイトに誘導ができるという、スナップチャットの広告主向けの機能。スナップチャットは、ARカメラを使ってアバターを作る機能を実装するなど、早くから新技術の導入に積極的でした。
「Shoppable Augmented Reality」の広告は、まずアディダスやゲーム「キャンディクラッシュ」を配信しているKing、映画制作会社STXフィルムズなどの協力によって配信されます。
こうした機能を使った広告を掲載することによって、ユーザーはより直感的に、そしてスムーズに欲しい商品を買うことができます。「広告を見せられている」と構えることなく、自然に情報と触れ合えることは、SNSを活用したマーケティングにおいて非常に重要なことです。
数秒で消える投稿を提供するスナップチャットは、「いいね!」を送り合う従来のSNSに疲れた若者を中心に支持されています。個別アプリを立ち上げることなく商品を購入できる「Shoppable Augmented Reality」も同様に、デジタルネイティブ世代にとって便利なものとして受け入れられているようです。
ワンクリック購入のメリット
ユーザーがボタン1つで商品を注文できる、ワンクリック購入。そのメリットを改めてまとめると、次のようになります。
- サイトに誘導することなくSNSや動画上で注文が完結
- 消費者が単価の安い商品をオンラインで購入しやすくなる
- カゴ落ちによる損失を減らすことができる
- CVR数の増加が期待される=売上増が見込める
1、サイトに誘導することなくSNSや動画上で注文が完結
ECマーケティングにおいて、FacebookやInstagram、TwitterといったSNSは欠かせない存在になっています。大勢のフォロワーをもち、市場に影響力を与えるインスタグラマー、ユーチューバーといったインフルエンサーを起用したプロモーションも、それほど珍しいものではなくなりました。
しかし、SNSを活用したプロモーションでネックとなるのがサイトへの遷移です。通常は、投稿を見ているユーザーを消費者として獲得するためには、自社のECサイトやアプリまで導かなければなりません。
サイトにジャンプするのをためらわれたり、アプリをインストールする手間を惜しまれたりなど、 SNSでの展開はコストに見合うだけの成果を得られにくい面がありました。
ワンクリック購入のテクノロジーを導入すれば、見ているその投稿からすぐに注文ができるため、わざわざ自社アプリやサイトをレコメンドすることなしに購入を促すことが可能になります。
2、消費者が単価の安い商品をオンラインで購入しやすくなる
最もワンクリック購入の恩恵を受けると目されているのが、生鮮食品や日用品といった単価の安い商品です。
100円、200円の商品1つを注文するために、商品画面からショッピングカート画面へジャンプするのを面倒に感じる人は多いでしょう。決済プロセスの長さを「時間的コスト」と考えて注文を控える潜在的な消費者を取り込む可能性を、ワンクリック購入はもっています。
物理的なボタンによってワンクリック注文を実現したAmazon Dashは、この消費者心理を有効活用したものです。
さらに、Amazonはここから一歩先に進み、日用品のストックがなくなりかける時期をAIで分析して準備する「予測発送」をリリースしています。個々のユーザーに対して「もうすぐ購入するはず」と予測される商品をリストアップし、近くの配送センターやトラックに保管、購入ボタンが押されると同時に商品を発送するという仕組みです。
ちなみにこれは2013年にAmazonが特許を取得している技術です。しかし特許失効前のワンクリック購入と同様に、ライセンス料を支払って他社が実装することが当たり前になる未来がくるかもしれません。
3、カゴ落ちによる損失を減らすことができる
先に紹介したように、カゴ落ちはEC運営側にとって大きなデメリットです。
ショッピングカートに入ったまま会計されない商品は利益にならないばかりか、ほかのカスタマーがその商品をほしいと思った時の障害にもなります。消費者のカゴから勝手に商品を抜き取るわけにはいかず、カート内に眠っている在庫があるにも関わらず「在庫切れ」を表示せざるを得ない事態も起こりうるでしょう。
サイトのユーザーにとってカゴ落ちは、他サイトをチェックするまでのキープ商品であったり、単なる注文し忘れのミスかもしれません。悪意のある行動ではないだけに、リテーラーは注意喚起やペナルティの実施をしづらい状況にありました。
ワンクリック購入が一般的なものとして浸透すれば、カゴ落ちの数自体はかなり減少できると予想されます。
4、CVR数の増加が期待される=売上増が見込める
サイトへのアクセスがどれだけ購入や申し込みに至ったかを示すCVRは、コンバージョンレート(Conversion Rate)の略です。
コンバージョン数/訪問数(セッション数)で率を求めるのが一般的な計算方法で、マーケティングや運営の方法が間違っていないかどうかを知るための重要な数字です。
ワンクリック購入は、従来のサイト遷移よりも少ないプロセスで注文が完結するために、購入までの心理的な敷居が低くなりやすい購入方法といえます。ゆえに、CVRが増加つまり売上の増加が期待できるかもしれません。
ワンクリック購入のデメリット
では、次にワンクリック購入が一般的となることで起こりうるデメリットについて見てみましょう。
SNS系企業の広告掲載マージンが高騰する?
ワンクリック購入の特許が失効したことで、ライセンス料が不要になり多くのEC事業者がSNSの投稿にワンクリック購入の機能を実装するでしょう。
そうなると、FacebookやInstagramといったSNSは今以上に広告需要が高まることになります。SNS運営企業は、掲載料やマージンをアップしてもEC事業者は支払うと考え、実際に広告料を上げるかもしれません。
とはいえ、SNSとECサイトが連携的にコンテンツを提供することは、複合的な利益を生み出す可能性もあるため、現状ではあくまでも予測といったレベルのデメリットととらえておけば問題ないでしょう。
複数の業者が同じ顧客データを得る
ワンクリック購入は、あらかじめ登録している配送先住所と支払い情報を利用することでスムーズな注文が可能になっています。
これは、ワンクリック購入を実装するすべてのEC事業者が、消費者に対して同一の顧客データを入手しているということになり、サイトの差別化といった観点から見ると工夫が必要な点といえます。
同一の顧客データを保持していることで、細分化したレコメンドや、独自のプロモーションがしづらくなるからです。
とはいえ、ECにおいて取得する顧客情報は、注文履歴や閲覧履歴、実店舗との横断的なデータ収集など多岐に渡るため、収集したデータをどのように組み合わせていくかは、それぞれの事業者によって試行錯誤が可能です。
まとめ
Amazonの特許失効を手放しで喜ぶだけの企業は少なく、「次にAmazonが何を仕掛けてくるか」、「次なるECの新テクノロジーは何か」に注目しているところが多いように感じます。ワンクリック購入が全世界のECに普遍的なテクノロジーとして実装されるかどうかは、今後の動きを見ていく必要があるでしょう。